三陸書房
今月号リレー・エッセイ2

『ガッジィラ』? いや『ゴジラ』! (中篇)
荒木 豊
日本映画、特に特撮ものが好きです。その中でも、製作:田中友幸、監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二、当時東宝特撮黄金トリオと呼ばれたお三方によって次々に作られた所謂「東宝特撮映画」が好きなんです。そんな「東宝特撮映画」のある作品についての独り言。
あまりにも有名な特撮映画であるため、≪オリーブ≫にて取上げるつもりはありませんでした。ところが今年7月、米国版の2作目が日本で公開され評判となっており、これは改めてオリジナル版を取り上げる必要ありと考え、この作品について大きい声で独り言をひっそりと呟くこととしました。
その特撮映画とは、もうお分かりですね、『ゴジラ』です。1954年11月3日に公開されました(制作・配給:東宝株式会社)。水爆実験により甦った太古の巨大生物が東京を破壊しまくるという映画です。東宝特撮黄金トリオによる初めての怪獣映画であり、私流特撮黄金カルテット(黄金トリオ+音楽:伊福部昭)初の怪獣映画でもあります。
では、私がこの映画で好きな.場面を中心に紹介しましょう。




先ずは、ゴジラの初登場場面です。一般的には山の上に頭部がヌーっと出現する場面だと記憶されている方が多いと思います。これは大戸島災害調査団が初めてゴジラに遭遇する場面です。ところで、画面中央のおねえさん、笑っているように見えます。歯を出しているからなんですね。私も2003年公開の『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(制作:株式会社東宝映画、配給:東宝株式会社)に、ゴジラから逃げる場面でエキストラ出演したことがありますが、その時、助監督さんから言われたのは、「歯は決して出さないで下さい」でした。どんなに真剣な表情でも、歯が見えていると笑っているように見えてしまうんですね。 




話を戻します。本当の初登場場面は、嵐の中、大戸島に不気味な巨大な足音が響き、民家が上下に震動し崩れ去る迫力ある場面です。ゴジラの一部(膝小僧)がチラリと映ります。公開当時、映画館で気付いた人は少ないでしょうね。現在はDVDやBDで繰り返し観ることが可能だからこそ気付く、非常にマニアックな場面です。なお、民家が上下に激しく振動する場面は、2001年公開の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(制作:株式会社東宝映画、配給:東宝株式会社)で、大戸島の近くに位置する孫の手島にゴジラが上陸する場面で再現されています。




次に、大戸島災害調査団が出発する前の国会で意見を求められた時の山根博士の登場場面です。最初はネクタイがスーツの上に出てしまっているのに気付かず話をしています。途中、気付いてネクタイを直し話を続けています。古生物研究に没頭し、衣服には頓着しない山根博士の人となりをうまく演出しています。




大戸島災害調査団が被害家屋を調査する一場面ですが、実写映像と合成用絵画(ゴジラの足跡など)とが合成されて作られています。この方法だと撮影所内、または近郊のオープンセットでの撮影が可能となります。完成映像を観る限り違和感はありませんが、個々に見ると背景が手書きの絵であることがよくわかります。人間の目は見ているようで見ていない、脳が自動補正してしまうのでしょう。この辺りを上手く利用した特殊効果だと思います。
なお、この合成作業は、ポスプロ(ポストプロダクション)(注1)によるオプチカルプリンター(注2)を使用したフィルム上の合成である可能性がありますが、グラスワーク(注3)による撮影現場での合成の可能性もあります。この方法を取れば合成作業に実質時間が取られませんので、製作期間の短縮につながります。




明らかにグラスワークを使った場面があります。東京を放射能火炎で焼き尽くす場面です。カメラはゴジラの頭部を見上げるように捉えています。スタジオ内で行われる特殊撮影の場合、カメラの仰角を上げ過ぎるとスタジオの天井が写ってしまいます。そこでカメラの仰角を天井が写らないギリギリの角度にし、グラスワークで映像に電線を加えます。仰ぎ見た時に見えるであろう電線の絵を合成することにより、実際の仰角以上に撮影しているように見える訳です。人間の錯覚を利用した見事な手法です。




大戸島災害調査団が目撃した巨大生物について国会で説明、解説する場面です。スクリーンに恐竜(獣脚類)の復元想像図が映されています。ティラノサウルスでしょうか。ゴジラのモデルの1つです。1950年代の想像図では獣脚類は直立しており、尻尾は地面についています。カンガルーを参考にしたのでしょうか。地層図による中生代の解説図に注目です。白亜紀は現在でも同じ書き方ですがジュラ紀は“侏羅紀”と書いたのですね。
ここでジュラ紀を今から約200万年前〜と説明しています。これは明らかな間違いです。約2億年(2億130万年)前〜が正解です(地質系統・年代の日本語記述ガイドライン 2014年1月改訂版より)。どうしてこのようなミスが起こったのでしょうか。現実世界とは別の世界として、わざとこの数値を使ったのでしょうか。約200万年前といえば、1950年代当時最も古い人類の祖先とされていたアウストラロピテクスが生存していた時代に一致します(約400万年前〜約200万年前)。暗に、度重なる核実験に対し人類の祖先が現代人に罰を与えに現代世界に怪獣となって現れたとか。
それとも、英文資料、英文論文を参考にした時、桁を間違えのかもしれません。
200万:  2,000,000:  2Million
   2億:200,000,000:200Million
英文表記だと“200”という数字が出てきます。Millionは百万。200百万を誤記して200万となってしまった、かもしれません。ま、永遠の謎ということで。




国会での山根博士の解説の後、与党議員の発言に対し猛抗議をする猛烈女性議員が登場します。菅井きんさんが演じていました。我国での女性参政権獲得から8年後。このような元気な女性議員が存在したのでしょう。このように『ゴジラ』は公開当時の社会情勢や社会生活を淡々と描いている映画でもあります。本多猪四郎監督のドキュメンタリータッチな演出がそう感じさせるのかもしれません。




この国電と思われる車内での会話は戦後9年後の作品だと感じさせます。
乗客女性 :「折角長崎の原爆から命拾いしてさ、大切な体なんだ
        もの。」
乗客男性右:「そろそろ、疎開先でも探すとするかな。」
乗客男性左:「あ〜あ、また疎開か。全くやだなぁ。」
このような台詞は戦後9年しか経っていないからこそ成立するんですね。
ちなみに“国電”とは現在のJRの通勤電車です。日本国有鉄道(国鉄)の電車の意です。国鉄がJRになった時、“E電”なる珍妙な愛称が推奨されたことがありました。JR東日本の電車≠ニいうことなのでしょうが普及しませんでした。愛称は推奨されて出来るものではありませんからね。




その国電が映っている場面があります。新聞社の窓から国鉄車両63形と思われるものが見えます。山手線、もしくは中央線でしょうか。また、この場面の次が凄いです。当時、ゴジラの着ぐるみ(当時は“縫いぐるみ”と呼んでいました。私もこちらの方が馴染みがあります)に入っていたのは、俳優:手塚勝巳と中島春雄。今風に言うと“スーツアクター”。なんだか格好いい職業に聞こえます。このお2人の貴重なツーショットです。新聞社の編集長と記者(編集者?)といった役どころでしょうか。




ゴジラによる破壊が続く中、ビルの片隅に我が子を守るように抱いている母親の場面も戦後間もない作品だと感じさせます。この母親が呟きます。
「もう直ぐお父ちゃまのところへいくのよ」
お父ちゃまは第二次世界大戦で亡くなったのでしょう。
さぁ、こんどは特撮場面を中心に紹介しましょう。えっ? さすがに時間、いや紙面切れ?! それでは続きは次回にでも……

 注1)ポスプロ(ポストプロダクション)
 :映画の製作における撮影後の合成や映像補正などの作業の総称。
 注2)オプチカルプリンター
 :撮影機に複数台の映写機を接続した装置で、主に合成など特殊
  効果に使用される。
 注3)グラスワーク
 :あらかじめガラスに絵を描き、それをカメラ前面に設置して撮
  影する合成手法。
(CG宗匠)




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