三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
炭から学ぶ哲学
岩下 浩子
環境研究所をつくり、「炭」という素材をどう活かすかをテーマに、25年ほど活動してきているが、「炭」はいまだに、私にとって魅力的な存在でありつづける。「炭」を通して見える世界は、「哲学」と言いたくなるほどの内容に満ちあふれているのだ。
「炭」というものを、関係の深い微生物の側から見てみたい。
「炭」には無数の孔がある。原料になる樹種や炭化温度の違いによって、孔径の大きさはさまざまだが、最も小さい直径1nm(ナノメートル、百万分の1ミリメートル)のミクロ孔、中位の2-50nm のメソ孔、大きな50nm以上のマクロ孔という3つの大きさに一応分類される。微生物たちは、その種により、自分にあった大きさの「炭」の孔を己が棲家として自由に選ぶ。たとえば、ミクロ孔にはバクテリア、メソ孔には放線菌、マクロ孔には糸状菌などの太い菌糸が着生という具合に。
炭素の塊である「炭」はアルカリ性で、その無菌状態に近い状態のものを土の中に置くと、途端に「炭」の孔は、微生物たちの棲家となる。まず初めに「炭」の孔に駆け込んでくるのは、土の中に棲む微生物のなかでも生存競争に弱いタイプだ。空気中の窒素を固定する役割のアゾトバクターという細菌が、それ。続いて、植物がリンを吸収するのを助けるVA球菌がどんどん増える。ということは、ヒノキ・スギ・タケや果樹などの根と共生してVA球菌をつくる種類のカビにとっても、「炭」の孔は居心地のよい棲家なのだとわかる。
「炭」というものを、関係の深い微生物の側から見てみたい。
「炭」には無数の孔がある。原料になる樹種や炭化温度の違いによって、孔径の大きさはさまざまだが、最も小さい直径1nm(ナノメートル、百万分の1ミリメートル)のミクロ孔、中位の2-50nm のメソ孔、大きな50nm以上のマクロ孔という3つの大きさに一応分類される。微生物たちは、その種により、自分にあった大きさの「炭」の孔を己が棲家として自由に選ぶ。たとえば、ミクロ孔にはバクテリア、メソ孔には放線菌、マクロ孔には糸状菌などの太い菌糸が着生という具合に。
炭素の塊である「炭」はアルカリ性で、その無菌状態に近い状態のものを土の中に置くと、途端に「炭」の孔は、微生物たちの棲家となる。まず初めに「炭」の孔に駆け込んでくるのは、土の中に棲む微生物のなかでも生存競争に弱いタイプだ。空気中の窒素を固定する役割のアゾトバクターという細菌が、それ。続いて、植物がリンを吸収するのを助けるVA球菌がどんどん増える。ということは、ヒノキ・スギ・タケや果樹などの根と共生してVA球菌をつくる種類のカビにとっても、「炭」の孔は居心地のよい棲家なのだとわかる。
棲むに恰好の場を得た微生物たちは、つぎに、それまでとは打って変わって、有機物を分解するもの、運び出すもの、それぞれ役割を分担して、精一杯働き、生きる。このように、不活性状態であった土の中に多孔質の「炭」が置かれることにより、微生物たちには棲み分けが可能となり、生命を活かし合う、活性のドラマの見事な連鎖が展開される。
つまり「炭」という場は、微生物たちにとって、心安らかに、心乱されずに生きることのできる安心立命の棲家なのであり、だからこそ全身全霊で、植物の生長を助けてくれるわけだ。生き物にとって(もちろん、人間も含めて)棲み分けがいかに大切であるか、今西錦司氏の「種の棲み分け」理論にもあるように、平和裡に棲み分けることの意味の重さが「炭」と微生物のドラマからもじっくりと見えてくる。
また、微生物の存在そのものがいかに生命を育む循環にとって重要であるのかもよくわかる。最近の風潮のひとつ、菌を片端から殺してしまおうとする抗菌ブームに違和感を覚えるのも、だからこそなのだ。人間ほど業の深い生き物は、どこにも見当たらない。
マツとマツタケの共生のドラマからは、忍耐の大切さを学んだ。マツタケは「シロ」という無菌状態の根と菌の集合体のようなものを土の中につくり、これによってマツの生長を助けるわけだが、マツタケ自身は、栄養をもらわないままで何と3〜5年も我慢強く待ち続ける。共生という生き方は実は我慢強い生き方なのだ。相手の生長を助け、育つのを待ち、長い忍耐の後にようやく相手から養分をもらうという共生の教訓には、目をみはる。
江戸時代の農学者宮崎安貞が著した『農業全書』に記載されている「灰糞(はいごえ)」というものを知ると、ますます微生物の存在に頭が下がる。炭の粉に家畜などの糞尿を混ぜておくと、枯草菌や放線菌が増え、有機物を分解してくれる。そのうえ、この分解の過程で、植物ホルモンや抗生物質をつくり出し、土壌病害も抑えてくれる。まさに神業のごとき、灰糞の科学的メカニズムだ。微生物万歳。そして「炭」は、微生物たちの力をうまく引き出してくれる優しさの塊なのだ。
このような「炭」の用い方はといえば、環境改善のため以外にも、ホオノキ、ニホンアブラノキ、アセビ、ツバキなどの炭は漆芸品や仏像・仏具の研磨に、キリ炭やコルク炭の粉炭は松ヤニなどの粘結剤で加工されて眉墨に、ヤナギの小枝炭は油絵や日本画の素描に、赤松炭は黒色火薬用木炭として夜空に輝く花火の原料に等、その独特な活躍ぶりは、挙げていくときりがない。「炭」は多才である。興味は尽きない。
最後に、研究所の仲間を紹介したい。「炭」と微生物との共同作業のお陰で、7年間1度の水替えも無しで安定している水槽をマイホームとして生活し、いつも笑顔を見せてくれる心優しきイモリのワンショットをどうぞ。彼らのまっすぐで純粋な眼差しを見ると、清らかな水に育まれた環境の蘇りを心から祈らずにはいられない。
浮み出て我を見てゐるゐもりかな   高浜虚子
(岩下環境研究所代表)



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